博報堂プロダクツ 映像クリエイティブ事業本部 杉本 菜々恵さんが、JAC AWARD 2024(主催:一般社団法人 日本アド・コンテンツ制作協会)のディレクター個人応募部門にてメダリストを受賞しました!また、ディレクター部門では、齋藤 大知さんがファイナリストとなっています。おめでとうございます!
「JAC AWARD」とは、映像文化発展のため、映像クリエイターの発掘・育成・映像技術の向上や若手のモチベーションアップと人材育成を図り、制作サイドの見地から表彰を行う賞として2007年に設立。プロデューサー部門、プロダクションマネージャー部門、ベストプラクティス部門、プロダクションサポート部門、ディレクター部門、ディレクター個人応募部門と6部門から成り、映像コンテンツ制作を支える人を対象とした賞です。
映像クリエイティブ事業本部では、毎年若手ディレクターの成長機会として「JAC AWARD」への応募をサポートしています。まずは、映像クリエイティブ事業本部内での社内選考を経て、選ばれた方が応募できます。今年のテーマは「セキュリティ」。テーマにそった30秒のオリジナルの動画作品を制作。企画・演出は応募者本人が行い、35歳以下の方が応募できます。今回はその JAC AWARD ディレクター個人応募部門にてメダリストとなった杉本さん、ディレクター部門にてファイナリストとなった齋藤さんにお話を伺いました。
CMプランナー・ディレクター 杉本 菜々恵、 CMプランナー・ディレクター 齋藤 大知
目次
一番大変だったのは社内選考
杉本:JAC AWARD は、35歳以下の人が応募できるため、博報堂プロダクツでは、若手育成も兼ねてJAC AWARDにチャレンジすることを薦められます。映像クリエイティブ事業本部内の社内選考を経て、晴れて応募できるのですが、この社内選考が最初の関門でした。
私は昨年もJAC AWARDの個人部門に挑戦していたのですが、社内選考では一度提出したアイデアに手を加えても、どうしても「面白さ」を取り戻すことができませんでした。個人部門だったので最後までなんとか完成させ応募しましたがファイナリストにかすりもしませんでした笑。そこで、今年は全く新しい発想を持って、毎回全く異なる企画を提出することに決めました。そして、5,6案目にこの作品の企画を提出した時に上長がついに一言目に「面白い!」って言ってくれたんです。
その瞬間、心の中で「これならイケるかもしれない!」と沸々と自信が湧き上がりました。先輩に役者さんについて相談すると素晴らしい方々を紹介してくださったことで、「これは良い作品にできる」と確信できました。信頼するカメラマンさんやスタッフさんに声をかけ、そこからは意外に順調に進み「絶対アワードを獲ろう!」とスタッフが一丸となり撮影に進んでいきました。
やはり当日は少数精鋭での撮影でかなりのバタバタな現場ではありましたが、皆で力を合わせなんとかやり遂げることができました。
齋藤:僕も6~7回ほど、企画を練り直して社内選考に挑みました。杉本さんが「面白い」と評価されたと聞いて、僕も「面白い」と言ってもらえるまで粘ればよかったなと、いま少し悔しさが募りました。承認を得るのは難しいけれど、やはり先輩たちの見極めの目は確かだと感じます。 初めに提案したのは、地方出身者が久しぶりに実家に帰り、そこで感じるコミュニティの距離感や濃密さ、家族や近所の人々に全てを知られているという温かさや煩わしさを描いた企画でした。しかし、そのアイデアではどうしても30秒に収めることができず、最終的には現在の企画に辿り着きました。
近くでやってるって聞いたから、たまたま寄っただけだよ?
杉本:2022年に新設されたディレクター個人応募部門は、テーマに沿った30秒のオリジナル動画作品を制作するというルールがあり、予算は10万円以内、全て一人で制作しなければなりません。最初は手作り感のあるホームビデオのような作品が多かったものの、ここ数年で作品のクオリティは飛躍的に向上し、今年は皆がかなりのレベルアップを果たしてくると予想していました。
予算内に収まるように、信頼できるベテランのカメラマンや照明さん、役者さんに協力をお願いしました。キャストを含め、スタッフは7名という小規模な体制でしたが、カメラマンと照明さんが、予想を超えて協力してくれて、光の入り方や映像のルックにこだわり抜いた結果、高品質な映像が生まれました。
実は、最初はお金があまり出せないため、カメラマンさんにだけ声をかけていたのですが、撮影当日、現場に到着すると、照明さんがふらりと現れ「近くでやってるって聞いたから、たまたま近くを通っただけだよ?」と言いながら、トラックいっぱいの照明機材を持参してくれたのです。思わず「えーっ!」と みんなでびっくりしながら、本当に嬉しくて。
齋藤:僕も、以前から一緒に作品を作りたいと思っていたカメラマンに依頼しました。企画が決定すると、プロデューサーから「この企画ならキャストにこだわった方が良い」というアドバイスをいただき、協力してもらうことができました。その結果、非常に演技力の高いベテラン俳優たちに出演をお願いすることができました。出演している3人は主演級の俳優さんたちで、これもまた大きなプレッシャーでした。
作品のこだわりとポイント
杉本:これまでJAC AWARDの受賞作品を見てきた中で、映像における良い意味での裏切りやどんでん返しが重要なポイントになっていると感じていました。私の作品も、その裏切りの部分を評価していただけたのではないかと思っています。 作品の前半では、いじめを受けている状況を表現するため、じめっとした暗いトーンの雰囲気で始まります。この空気感を映像に反映させたくてカメラマンに相談したところ、客観的な横アングルで撮影するというアイデアをいただきました。客観的な視点から、予想を裏切るシーンに切り替わる際には、照明もパッと明るくし、正面から主人公を捉え、表情も笑顔にしています。これにより、心情の明るさを強調しました。この一気に雰囲気が切り替わる様子にこだわったので、ぜひご覧いただきたいと思います。
齋藤:シチュエーションを一部屋に設定したので、テンポ感を意識しました。最初のシーンでは、お札を数えている生々しさを感じる寄りからはじまり、目線が入り、パッと振り返る瞬間に繋げることで、カットのテンポ感と不穏さを強調しました。絵のルックにも注目してもらえたら嬉しいです。部屋の小物などは作り物に見せたくなかったので、リアリティを追求しました。ここまで美術にこだわることが出来る撮影は今までなかったので、部屋の美術を考えるのはとても楽しかったです。「海外に憧れている地方在住の女の子のちょっとおしゃれな部屋」という雰囲気を目指しました。ライティングについては、照明さんに基本的にはお任せしましたが、僕が作りたい世界観を見事に再現してくれるライティングでした。机に突っ伏しているシーンやラストカットのトーンなども、朝のシーンから夜のシーンまで照明を変えつつ、本当に素敵に仕上げてくれました。実は、セッティングに最も時間がかかったかもしれません。
杉本:わかりますー!
齋藤:あと、30秒に収めることが一番難しかったですね。主人公は、家族に何か隠し事がある、なぜか夜働いている、そして家族が勝手に介入してくる、ラストの種明かしまで多くの構成要素を整理するのが本当に大変でした。ただ、整理しすぎてしまったという反省もあります。後に審査員の方から「わかりやすくしすぎ」と言われ、そのバランスを取るのは難しかったですね。トラックイン(カメラが移動して被写体に近づく)で主人公がバッと振り向くシーンや、父親の表情を大きく捉えることで、切迫した空気感を作り出しました。また、切り替えた後のシーンでは少し引いた構図にすることで、見る人が自然と開放感を味わい、エモーショナルな気持ちを感じられるような構成にしました。
杉本:30秒に収めるためには、セリフの文字数が重要です。端的に表現しないと収まりきらないため、本当に難しいですよね。
発表を受けて
杉本:まず、ファイナリストが発表され、その一ヶ月後の受賞式で最終結果が会場で発表されます。
メダリストを受賞し選考委員のコメントを見た時ようやく自分の作品を客観的にみることができ、自分の成功ポイントやこれから成長すべきポイントを知ることができました。その一方で、自分が企画・制作した作品が選考委員に評価され、多くの方々に見てもらえたことが大きな励みとなりました。この受賞をさらに成長につなげて、指名される映像ディレクターになれたら嬉しいです。
齋藤:グランプリが取れなかったことは悔しいですが、ファイナリストが発表されたときは本当に安心しました。会社からの支援を受けていることや、協力してくださった多くの方々のことを考えると、なんとか何かを受賞しなければ!という気持ちが強かったです。
受賞作品紹介
2024 JAC AWARD ディレクター個人応募部門 メダリスト
「三者面談」 杉本 菜々恵
https://youtu.be/Dgavp8Kgmao?si=PenCuaZK1WLilqF8
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<スタッフリスト> カメラマン:堀 智弘、ライティング:Ryo Shibata、音声:大町 響、
キャスト:麗子/相川 真祐子、母/大沢 まりを、先生/北川 宏美
JAC AWARD 2024 ディレクター部門 ファイナリスト
「家族の視線」 齋藤 大知
https://youtu.be/U316GsD6YDA?si=FvPrQ5bZ3Xu-ficc
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<スタッフリスト> カメラマン:齊藤 夏寬、ライティング:上田 稜、音声:鷹濱 蘭、
キャスト:ゆき/瀬戸 璃子、お母さん/和田 光沙、お父さん/川瀬 陽太
お互いの作品を見て
杉本:最初に齋藤さんの作品を見せてもらったとき、そのクオリティの高さに驚きました。これまでの作品同様、雰囲気が素晴らしく、齋藤さんらしさがしっかりと表現されていると感じました。絵だけでなく、実家ではプライバシーがないことや海外への憧れなど、主人公の気持ちにも強く共感しました。本当に素晴らしい作品だと思っていたので、なぜグランプリではないのか不思議でした。私自身も悔しいです。
齋藤: 杉本さんには何度もお話ししているのですが、杉本さんの作品を見たとき「これがグランプリを獲ったな」と素直に思いました。企画も素晴らしく、非常にわかりやすく、インパクトもありますし、ルックのクオリティもかなり高くて、本当に10万円で制作したとは信じられないくらいです。
これからチャレンジしてみたいこと
杉本:私は、この作品に登場する主人公みたくどんな時にも自信を持って輝けるように女性を応援するCMを作りたいです。また、企画の段階から撮影手法を含めて、さらに解像度の高い具体的な話ができる人になりたいと思っています。プランナーとディレクターを兼任していれば、企画段階からアウトプットの映像が見えているため、話もスムーズに進み、アウトプットの相違も少なくなります。そうした強みを持った人になりたいです。
齋藤:これまでの作品でカッコいい映像と、今回の作品でエモーショナルな(ドラマっぽい)映像の2つを通じて、自分のやりたい方向性を確認できた気がします。さらに、ちょっとギミックの効いた特殊な撮影の作品にも挑戦してみたいと考えています。これまで見たことのない映像、視覚的に面白い映像にチャレンジしたいですね。広告の仕事をしている中で、贅沢なことを言わせてもらうと、クライアントと共に「かっこいい」という評価を優先順位の一番に置いた映像をつくりたいです。
杉本:二人とも夢は大きく!
齋藤:言葉に出して言えば、そういう仕事が来るかもしれない!
映像クリエイティブ事業本部、博報堂プロダクツの魅力
杉本:博報堂プロダクツには、さまざまな領域のプロフェッショナルが揃っており、その中には同期もいます。皆仲が良く、よく相談し合っています。このような環境が本当にありがたいと感じています。
齋藤:博報堂プロダクツは、人が魅力的です。風通しが良く、仕事がしやすい環境だと感じています。映像クリエイティブ事業本部では、若手に演出を任せる機会が増えてきたように思います。プロデューサーたちも、若手を育てたいという意欲を持っており、その気持ちが伝わってきます。その期待に応えられるよう、早く成果を出したいと考えています。
プロフィール
博報堂プロダクツ 映像クリエイティブ事業本部 企画演出部 CMプランナー・ディレクター 杉本 菜々恵、 CMプランナー・ディレクター 齋藤 大知
関連サイト
映像クリエイティブ事業本部 神田蘭子さんが、JAC AWARD2023 ディレクター部門にてグランプリを受賞!