2022年12月、博報堂プロダクツのフォトクリエイティブ事業本部はドローン撮影に特化したプロフェッショナルチーム「pod(ポッド)」の本格稼働を発表しました。現在、企業のPVなどで需要が高まっているドローン撮影。フォトクリエイティブ事業本部に所属するフォトグラファー自身がドローン操縦と撮影を手がける専門チームを結成した理由、そのメリットについてpodのプロデューサーである髙橋佑馬とフォトグラファーの辻徹也、大津央、そして九州を拠点に活動する、ENGINE PHOTO CREATIVE フォトグラファー 堤悠貴に話を聞きました。
左から
大津 央 フォトクリエイティブ事業本部 drop フォトグラファー
髙橋 佑馬 フォトクリエイティブ事業本部 Creative ONE プロデューサー
辻 徹也 フォトクリエイティブ事業本部 drop フォトグラファー
pod に込められた3つのコンセプト
── フォトクリエイティブ事業本部とドローン専門チーム「pod」について教えてください。
髙橋
前身となる博報堂写真部の時代を含めると35年の歴史を持つ、フォトクリエイティブ事業本部には、フォトグラファー、レタッチャー、プロデューサーと合計約23人が所属しています。シズル撮影に特化した専門チーム「drop」や、九州を拠点とした「ENGINE PHOTO CREATIVE」など、五感を揺さぶるビジュアル表現を長年追求してきました。
そして、このビジュアル表現の新たな手法としてドローン撮影が加わり、空撮を中心としたドローン撮影のプロフェッショナルチームが「pod」となります。
── podを設立するきっかけ
髙橋
4年ほど前からドローンを新しいビジュアル表現に取り入れたいというアイデアを持っていました。当時、海外ロケでインド洋のモルディブへ行った際、そこで初めて小型ドローンの撮影現場に遭遇しました。ドローンの存在自体は知っていたものの、実際に俯瞰撮影が驚くほど手軽にできることに衝撃を受けて、帰国してすぐに個人的にドローンを購入し、自分自身で研究し、操縦や撮影などさまざまなことを試しました。
これまでもいくつかドローン撮影の仕事もありましたが、ほとんどが外部の専門企業に依頼する形で、社内のフォトグラファーが正式に撮影業務として進めるにはもう少し準備が必要でした。撮影業務に適した機体の選定や購入、メンバーの操縦者資格取得、運用ルールづくりなどに半年ほどかけました。ドローンを実際に撮影業務で使い始めたのは、2021年末頃からです。そこから1年かけて、さまざまなノウハウや撮影スキルと経験を蓄積し、ドローン撮影のプロフェッショナルチーム「pod」として、正式に発表することができました。
プロデューサー 髙橋 佑馬
── チーム名「pod」への想い
髙橋
「P」は“Perspective(視点)”です。これはフォトグラファーが自らドローンを操縦することで、アングルやライティングにこだわった撮影が可能になることを意味しています。
「O」は“Organized(組織力)”です。撮影場所のコーディネートから、ドローン撮影に必要な各機関への申請や許諾、撮影後の映像編集までワンストップで提供できることを表しています。
「D」は“Development(発展性)”です。フォトクリエイティブ事業本部のさまざまなソリューションとドローン撮影を組み合わせることで、新たなクリエイティブに挑戦する思いが込められています。
「pod」には⼩型の宇宙船という意味があり、無重⼒空間で縦横無尽に動くさまから、
フォトグラファーがアングルの制限から解き放たれ、無限の宇宙への表現への挑戦という意味をこめています。また「pod」のロゴは回転させても「pod」に見えます。ドローンのプロペラのように回ってもちゃんと「pod」に見えるということにもかけています。
大津
準備期間に髙橋さんから最初に声を掛けられたのは私になります。まずは2人でスタートして、社内向けの事業説明資料を作成する手伝いから始めました。ドローン分野はテクノロジーの進化がかなり速いんです。もともとドローンだけでなく、いろいろな撮影機材にも興味があったので、常に最新情報を進んで集めてチームと共有しています。
フォトグラファー 大津 央
辻
僕はもともとヘリを使った空撮などもしていたのでとても興味がありました。ドローンであれば、ヘリでは不可能な低高度での撮影もできて面白いクリエイティブ表現ができるかもしれないと思い、「pod」に参加しました。それに髙橋さんとなら、楽しく仕事ができると感じたことも大きな理由ですね。
フォトグラファー 辻 徹也
髙橋
九州を拠点とするENGINE PHOTO CREATIVE フォトグラファーの堤さんと池田さんも「pod」メンバーです。ドローンを活用した撮影案件が増え、現在は九州のチームで西日本エリア全域の案件をサポートしてもらい、全国でドローン撮影ができるようになりました。
堤
自然も豊かで風光明媚な九州には視界が開けた撮影スポットが多く、ドローンを使ってダイナミックな映像を撮影できます。加えて、都市部と比べると行政などへの撮影許可も比較的取りやすいと思っています。
フォトグラファー 堤 悠貴
フォトクリエイティブ事業本部ならではの強み
──ドローン撮影は外部の動画制作会社に依頼するケースが多い中で、なぜ博報堂プロダクツのフォトクリエイティブ事業本部が自ら取り組むのか?
髙橋
ドローン撮影を専門に行う会社に依頼するのもひとつの方法です。私たちはドローン撮影に限って言えば後発となります。しかし「pod」では他社とは異なるメリットがいくつもあると考えています。ひとつは、フォトグラファー自身がドローンを操縦することで、アングルやライティングにこだわって、フォトグラファー自身のイメージをそのまま表現できることが一番大きい利点です。
辻
フォトグラファーの立場からすると、ドローン撮影だけを他社に依頼すると、欲しい映像のアングルや微妙なニュアンスを細かく説明しなくてはなりません。今撮りたい!という撮影タイミングを逃すこともありますし、経験的には歯がゆいことが多かったですね。屋外撮影では天候などのコンディションにも左右されやすいので、素早く臨機応変に動けることは重要です。フォトグラファー同士なら共通言語も多いですし、社内ならではの阿吽の呼吸でコミュニケーションが取りやすいことも現場では大きなメリットとなります。
──その分、ビジュアル表現の追求に集中できますね。内製化のメリットはほかにもありますか。
髙橋
「pod」では、ドローン撮影と編集まで一貫して行えるだけではなく、プロダクション機能もありますので、こちらからご提案する場合も、ご相談を受ける場合も、担当プロデューサーが窓口となって、すべてのプロセスに責任を持って対応できる体制を構築しています。これも大きな強みのひとつだと思っています。
大津
ドローン撮影には場所の選定だけでなく、管理する自治体や土地所有者との許諾申請などの手続きが必要です。ほかにも航空法による高度の制限などさまざまな法規制がありますが「pod」では、こうした手続きなども一括してお受けできます。
辻
申請手続きも撮影手法やスケジュールの細かな相談も、すぐに声が届く距離感でできるのは社内のチームならではと思います。
──すでに、ドローンを用いた撮影をいくつも行われていますが、どのような業種や仕事の依頼が多いのでしょうか。
髙橋
アートやエンターテインメント分野からのお問い合わせが多いですね。最近では、車両や船舶など、対象物の動きを追従しての空撮の事例が増えました。また、住宅や工場など、大きな建造物の撮影にもドローンは適しています。農業や漁業など広大な光景や、地方自治体のPRのイメージムービーなどの撮影もあります。博報堂プロダクツは「徳島県版ドローン特区」に認定されている徳島県那賀町と昨年10月に地域活性化包括連携協定を締結するなど、ドローン撮影の領域はますます広がっています。
──万博記念公園の太陽の塔のポスター写真は印象的でした。
髙橋
こちらは、ドローンをカメラとして利用するのではなく、2台のドローンに強力なストロボとバッテリーを搭載して十数メートルの高さまで飛ばし、太陽の塔の背後から照らして撮影するという今までにない取り組みでした。
大津
考え方としてはクレーンや櫓を組んで照明を設置すれば同じことができるかもしれませんが、それには多大な手間も費用もかかります。太陽の塔は高さが70メートルくらいあって、近くで見ると本当に巨大なんです。たまたまドローンでライトを飛ばせるかという話があり、理論的には可能でした。そこで、事前に社内のスタジオで、ドローンを飛ばし、シンクロ速度のテストや操縦の練習を重ね、実現可能とわかり撮影することができました。今までであれば、思いついても諦めてしまったかもしれない撮影も、チーム内で相談し、どうしたら実現できるのか?といったアイデアをみんなで検討し、実現に結びつけることができます。
──社内でドローン操縦の練習ができる環境があるのですね。
大津
僕はもともとラジコンヘリの操縦経験もあったので慣れているほうだと思いますが、ドローンの操縦はスポーツと同じで、普段から練習していないとどうしても腕が鈍るんです。社内のスタジオも活用しますが、週末には自主的に埼玉にあるドローン練習場で自主的にトレーニングしています。
髙橋
やはり、ドローン撮影は落下など事故のリスクを伴いますので、安全性についてはかなり気をつけています。操縦者免許の取得はもちろん、十分な時間の経験を積むことも社内ルールとして定めています。
ドローン撮影が当たり前になる未来へ
── フォトクリエイティブ事業本部としてドローン撮影に取り組む意義や利点がわかりました。今後チャレンジしてみたい手法や映像表現はありますか?
大津
通常のドローン撮影については、ノウハウがかなり溜まってきました。これらの経験とノウハウを踏まえて、これから挑戦したいと思っていることは、マイクロドローンによる撮影です。これは、小型で軽量のドローンであり、そのコンパクトさを活かし、アクロバティックな操縦やスピード感のある映像を撮影することができます。例えば、室内などの空間で周囲の状況を認識しながら、ぶつからないように移動することで、面白い映像が撮れると思います。
一人称視点の映像を撮影できる「FPV(First Person View)」にもチャレンジしたいと思っています。ゴーグルを装着し、手元のコントローラーの画面を見ながらではなく、ドローン本体に搭載された小型カメラから伝送された映像を装着したゴーグルに投影しながら操縦と撮影ができます。まさに、ドローンがカメラマンの“目”としての役割を果たします。FPVの映像には、惹きつけられるものがありますので、さらに技術力を高めて仕事に活かしていきたいと思っています。
辻
「pod」がきっかけで広告撮影の選択肢にドローンが加わりました。テクノロジーの進化によって、視野も可能性も広がり、新しいビジュアル表現も追求できます。ドローン撮影の経験は、ドローンを使わない地上の撮影においても活かせると感じています。
髙橋
私自身はプロデューサーですが、実際にドローンを自分で飛ばしてみて、ようやくフォトグラファーの目線に立つことができたなと思う瞬間がときどきあるんです。僕もマイクロドローンにチャレンジしたいですね。
── podの本格的な活動は始まったばかりですが、達成したい目標はありますか。
髙橋
ここにいる「pod」のメンバーはもともとテクニカルなことに関心があるので、ドローン撮影も楽しみながらすぐに適応できました。今後はほかのフォトグラファーにも、ドローン撮影の魅力を知ってもらい、技術を身に付けてもらえたらと思っています。
将来的にドローンは決して特殊な技術ではなく、プロの撮影スキルの一部と当然のように思ってもらえるようになることが目標なので「pod」というドローン専門チームが必要なくなることが最終的な「pod」のゴールなのかもしれません。
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