博報堂プロダクツは企業のサステナビリティ活動を加速させるべく、2023年に専門プロジェクトチーム「SUSTAINABLE ENGINE(サステナブルエンジン)」を発足しました。プロモーションとサステナビリティ、両領域の知見を備えたエキスパートが結集した同チームは、「パーパス構築」「コミュニケーション設計・発信」「具体化アクション」という3つのプロセスで最適なソリューションを提供し、企業におけるサステナビリティ目標の達成を支援しています。
チームが蓄積するノウハウを社会に共有するため、「SUSTAINABLE ENGINE」のメンバーが、2024年11月に開催された「宣伝会議サミット2024(冬)」に参加。幅広いパートナーの皆さまと共に、4つのセッションで意見を交換しました。
コーポレートサイトTOPICSでは4回にわたり、同イベントのレポートを連載します。Vol.2のテーマは「クリエイティブ視点で活性化させる、企業のサステナブルアクション」。プロダクトデザインを通じた、サステナビリティの具体策について、事例とポイントをお伝えします。
【目次】
―変化するものづくりの存在意義を生活者の視点から捉え直す
―アップサイクル起点の発想からユニークな付加価値が生まれていく
―ユーザー心理の精緻な洞察がウェルビーイングやDE&Iを実現する
―多様性社会にフィットするデザインをさまざまな領域の企業に届けたい
変化するものづくりの存在意義を
生活者の視点から捉え直す
企業におけるサステナビリティアクションの普及とともに、ものづくりのあり方も変化しています。原材料や製造プロセス、機能性などに求められるのは、環境配慮やダイバーシティ、ウェルビーイングの観点。「社会貢献を通じて商品価値を高められる」と、プロダクトデザインの可能性を語るのは、MDビジネス事業本部のプロダクトデザイナー・橋本千里です。
橋本:プロダクトデザインは従来、商品の魅力やブランド力の訴求を主な役割としてきました。一方で現在求められるのは、商品の存在意義や社会課題との関わりを、デザインに落とし込む力です。サーキュラーエコノミーに配慮した設計、ウェルビーイングな商品企画、多様性への配慮など、“サステナビリティ×デザイン”の発想が重要化しています。MDビジネス事業本部のプロダクトデザインチームが目指すのは、「クリエイティブのチカラで未来をより豊かにすること」。クライアントの多彩なニーズに応えるべく、新たなものづくりのカタチを提案しています。
サステナビリティに関する課題は多岐にわたりますが、デザインにおいて重要なのは「プロダクトとの相性」と、橋本はつづけます。
橋本:クリエイティブにおいて重要なのは、世の中のニーズに対してプロダクトができることを再整理し、デザインとして具現化することです。私たち博報堂グループの根底にあるのは、人を単純な「消費者」ではなく、多様化した社会の中で主体性を持って生きる「生活者」として捉えるマインド。一人一人のインサイトを洞察し、新たな価値を創造する“生活者発想”を強みとしています。この生活者発想と企業課題を掛け合わせると、ユニークな解決策を導くことができます。
企業課題と生活者発想の掛け算は、どのような相乗効果を生み出すのでしょうか。次より“環境”と“社会”、それぞれの観点から具体例を見ていきます。
アップサイクル起点の発想から
ユニークな付加価値が生まれていく
環境配慮のプロダクトデザインでポイントになるのは、生活者にとっての価値との両立です。サーキュラーエコノミーなどを前提としつつ、魅力や機能性を高めていくことで、クリエイティブの真価が発揮されていきます。
MDビジネス事業本部のプロダクトデザイナー・内田成威が紹介したのは、社内アワードの記念品であるペンのパッケージ。容器の素材を段ボールにしながら、トロフィーの形状にデザインすることで、本来捨てられるペンの箱に価値が生まれた事例です。
内田:アワードの受賞者にヒアリングしたところ、ペンを取り出した後にパッケージが捨てられていることが判明。解決策としてのアイデアが、パッケージそのものをトロフィーにして飾ってもらうことでした。箱の内側には社長のメッセージも記載し、紙で別途用意していた挨拶状も削減。段ボール素材はリサイクル起点の発想ですが、断面のユニークな手触り、梱包材としての機能性にも優れます。受賞者のデスクに置かれたトロフィーを見た時、施策は成功と感じました。
次に紹介されたのは、地域資源のアップサイクルを実現する「もみがらノート」。博報堂・博報堂DYメディアパートナーズでは、山梨県にある耕作放棄地を再生した有機農法の田んぼ「はくほうファーム」で、お米を生産しています。お米づくりで発生する籾殻を活用しようと、もみがらノートは企画されました。
内田:4種類あるノートの表紙は、並べると人と自然の循環になるイラストです。各ページの挿絵には、お米がノートに変わるプロセスを描き、アップサイクルへの理解を深められるようにしました。ノートの綴じは、古紙再生の観点から、金具を使わない方法を採用。アップサイクルの結果、紙面にはもみ殻の粒がそのまま残るなど、風合いのある一冊が仕上がりました。
こうした社内事例を応用すると、どのような商品・サービスが生まれるのでしょうか。内田は幅広い可能性を示します。
内田:例えば飲料メーカーであれば、ゴミを削減できるパッケージデザインなどが想定されます。製造工程で生まれる廃材をアップサイクルすれば、多くのメーカーで新たなものづくりを実現できるでしょう。新商品やノベルティ、店舗の什器にとどまらず、アップサイクルそのものを楽しむイベントなども開催可能です。
ユーザー心理の精微な洞察が
ウェルビーイングやDE&Iを実現する
“社会”の課題にアプローチする事例として紹介されたのは、「親と子にちょっとハッピーなプロダクト」。博報堂プロダクツに所属する現役“ママクリエイター”のインサイトを、プロダクトデザイナーがカタチにする施策です。子育てのさまざまなシーンにプラスαのアイデアを加え、親子のウェルビーイングを提供しています。
橋本:子どもの成長過程で発生する、着られなくなった服をアップサイクルし、ぬいぐるみを作成しました。子どもの服には、愛着のある模様や食べこぼしのシミなど、親の思い入れがつまるもの。そこにアパレルメーカーの廃材を組み合わせると、世界に一つだけの可愛らしいぬいぐるみができるんです。
プロジェクトでは他にも、お手伝いを通じて食育につながるような野菜の捨ててしまう部分を生かしたフードロス削減レシピブックや、ママの余ったコスメを生かしたメイクアップの練習ツールなど、ユニークなプロダクトが開発されています。
橋本:クリエイターママの実体験に基づくフレッシュな声を汲み取ると、ウェルビーイングなモノが生まれることを、このプロジェクトで実感しました。新商品開発やオーダーメイドサービス、体験イベントに応用すれば、食育やアップサイクル、好奇心の刺激など、さまざまなニーズに応えられるはずです。
DE&Iを実現するプロダクトデザインも紹介されました。色覚特性の目を持つ内田は、一般の方と異なる色の見え方や感性を通じ、インクルーシブデザインをテーマにした作品を手掛けています。
内田:日本に約320万人いるとされる色覚特性の方と、色に関するわかりやすさや楽しさを共有したいと思い、「色が伝わる折り紙」をデザインしました。表面は色とりどりの通常の折り紙ですが、裏面では色の名前、種類、明度、彩度をチェックボックス式で簡単に整理。主観的な見え方に捉われず、どのような色かを正しく理解できるよう設計しています。ファッションや画材など、さまざまなプロダクトデザインにも生かせるでしょう。
また、色覚多様性をテーマにした写真作品「光と感覚」は、見る人の感覚やその場の光で変化する色の魅力を伝えることがコンセプト。偏光板を使用し、無色透明のフィルムを曲げたり重ねたりして撮影することで、色とりどりの写真作品を生み出しています。感覚の異なる人が作品を鑑賞し、見え方の違いなどを対話すると、色覚の多様性を楽しく理解できる仕組みです。
内田:他にも、「美しさやデザインを楽しみたい」という視覚障がい者のニーズに応えられるよう、手触りで楽しむパズルを制作しました。このプロセスでは触覚と陰影から構成されるデザイン研究ツールを開発しており、ペットボトルやグラスにも応用しています。培った一連の手法は、インクルージブデザインの商品、障がい者アートワークの活用など、さまざまな課題解決アクションにつなげられると思います。
多様性社会にフィットするデザインを
さまざまな領域の企業に届けたい
さまざまな試みでノウハウを蓄積する、MDビジネス事業本部の二人。今後はクライアント企業との協業を通じ、“サステナビリティ×プロダクトデザイン”の可能性を広げたいと語ります。
内田:アップサイクルに生かせる素材は、現在さまざまなものが開発されています。それらをクリエイティブ思考で立体化することで、企業や社会に貢献していきたいです。多様性社会にフィットするデザインは、マイノリティの方の生活のみならず、周りの人々、社会全体をも豊かにします。そんな視点を共有できれば、パートナーの皆さまとの共創は加速するはずです。
橋本:つくるだけでは、モノが売れなくなった時代。製造プロセスの精査、細かなインサイトの発見と実装、生活者とのコミュニケーションが、商品の価値を左右すると考えています。大切なのは、立場の異なる人々が、フラットな関係でアイデアを出し合う環境です。企業の垣根を越え、皆さまと自由なものづくりを育むことで、サステナブルな社会を実現していきたいです。
「クリエイティブ視点で活性化させる、企業のサステナブルアクション‐環境編‐」
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「クリエイティブ視点で活性化させる、企業のサステナブルアクション‐社会編‐」
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