これまで博報堂グループは、ブランドマーケティング領域を中心に価値を発揮していましたが、その領域を実店舗での購買の部分にまで拡大することを目的に、博報堂DYグループ横断組織である「ショッパーマーケティング・イニシアティブ(以下SMI)」を設立。SMIに参画している博報堂プロダクツは「営業・販売支援人材サービス」の専門チーム、営業・販売支援を行っているグループ会社「セレブリックス」と共にグループを横断した取り組みとして、新たなソリューションの提供を開始しています。
ECサイトの利用者が増加する一方で、メーカーにとっては生活者との接点が多く、売上に直結しやすい実店舗の重要性が増している中、本部商談のサポートから店頭戦略とその実現までを提供する博報堂グループの新たな取り組みについて、博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部の岸部 純也と、博報堂 ショッパーマーケティング事業局の西村 庸平の2人に話を聞きました。
岸部 純也 株式会社博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部 リテールプロデューサー
西村 庸平 株式会社博報堂 ショッパーマーケティング事業局 リテールDX推進グループビジネスプロデューサー
メーカーのトレードマーケティング領域をサポートし、リテールストアにおける売上成長を目指す
──メーカーでは、実店舗での販促活動を重視する一方、営業担当者が抱える課題も多いと思うのですが、リテール企業側からは、どのようなことを求められているのでしょうか?
西村
私自身のこれまでの体感として、直近ECの台頭や商圏におけるオーバーストア等様々な情勢を背景に流通チャネルの垣根を超えた競争がより激しさを増していると感じます。その点よりリテールからは競合企業と差別化された戦略やプラン、オリジナリティある提案が求められています。例えば⓵競争力のあるプライシング、⓶エクスクルーシブアイテム(PBなど)、⓷オリジナルキャンペーンや各種施策などが挙げられ、これらは最終的にリテールの集客に繋がることから、リテール側も特に注力しています。
──その経緯もあり直近“トレードマーケティング”の重要性がより注目されていますよね?
西村
そうですね。これまでメーカー側はリテールの主にチャネル(業態)単位で販売計画や戦略を立案していましたが、直近はリテールの寡占化も進み、企業単位の粒度でそれらが必要となってきています。この様な状況からメーカーは必然的にリテールに対する提案内容の精緻高度化が求められており、入口のデータ分析から最終的な店頭実現までを網羅した提案が必要であると考えます。弊社のショッパーマーケティング事業局もその様な動向も踏まえて設立されている経緯もあります。
博報堂 ショッパーマーケティング事業局 リテールDX推進グループ ビジネスプロデューサー 西村 庸平
──現在、そのトレードマーケティング領域に向きあったソリューションを博報堂と博報堂プロダクツが構築して展開しているという認識でよろしいでしょうか?
岸部
はい。すでにご提供しているもの、まだ準備中のものどちらもありますが、メーカーの営業部門・トレードマーケティング領域の支援をするためのソリューションを構築しています。
──その支援の一つとして博報堂プロダクツの「営業・販売支援人材サービス」の専門チームが存在すると思いますが、具体的にはどの様な活動を行っているのでしょうか?
岸部
これまで博報堂グループは主にブランドマーケティング領域において生活者の意識や動向を理解し分析できていることが博報堂グループの強みでした。しかし、商品と生活者というのは間にリテールがいてくれなければ繋がらないんですね。そこで博報堂グループとしてリテール・売場の領域のサービスを提供できるようになれば、メーカーへの貢献も拡大するであろうという考えのもと、リテール領域、メーカーの営業領域に対する支援にまで取り組むことになりました。その中でも私たちのチームでは、メーカーの営業組織のBPOとして個店に対して売場・売り方を提案したり、売場の陳列作業的なことまで含めて行うラウンダーと呼ばれる人材を派遣することで、売上につなげるサービスを展開しています。
博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部 岸部 純也
──博報堂プロダクツの専門チームが個店を対象にしたリアルな売場展開をサポートする一方、博報堂としてはどのような連携をされているのでしょうか?
西村
トレードマーケティング領域をより広い範囲でカバー・統括しています。例えばメーカーのトレードマーケティング領域の課題解決に向けたソリューションを開発したり、アプリやサイネージをはじめとした各種リテールメディアの企画・設計を担ったりと結果としてリテール本部への商談サポートから小売店での店頭実現までを博報堂グループで包括的にサポートすることが可能となっています。
トレードマーケティング分析ソリューション。「配荷方程式TM」を用いた新たな取り組み
──具体的に、どのようなソリューションを提供できるのでしょうか?
西村
まさに今、サービス提供を開始したソリューションとして「配荷方程式TM」があります。これは複数の購買データや店頭データを掛け合わせることで、その企業における最適な品揃えや配荷、プライシング等をメーカーに代わって分析・レポートするサービスです。ここで扱う店頭データはラウンダーが各店を巡回して蓄積したレポートや写真をデータ化したものになります。
──店頭データの収集はラウンダーによる人海戦術が行われているわけですね。そんな重要な役割を担うラウンダーを抱えているのが、博報堂プロダクツのグループ会社である株式会社セレブリックスになるのですね。
岸部
そうです。セレブリックスは様々な人材サービスの提供を行なっている会社なのですが、特にラウンダーサービスに関しては私たちと二人三脚でご提供しています。
私たちがデータをもとにラウンダー人材リソースの最適な配分プランや、個店や商品に合わせた商談資料の展開を行い、セレブリックスがそのプランを高精度に実行する人材を教育・運用していく、というスキームとなっています。これによって他社ラウンダーサービスよりも生産性が高いことが、我々ならではの強みだと思っています。
西村
いわば博報堂プロダクツが戦略・戦術を担い、実行・運用をセレブリックスが担うというグループ間で連携体制を敷いている訳ですね。博報堂プロダクツという立場だからこそ得られる販促、店頭の知見や、様々なデータが応用できる点は、店頭活動のパフォーマンスの向上に繋がりそうですね。
将来的にはより包括的なトレードマーケティング全体の支援実現を目指す
──この取り組みによる成果事例がありましたら教えていただけますか?
岸部
代表的な例として店頭プロモーションと絡めた店頭展開での事例をご紹介します。
店舗誘引目的のWeb広告施策と連動し、過去の売上や商圏データからどの店舗を集中的に商談していくべきかを設計し、プロモーション効果の最大化を図りました。また、個店への商談の際に使用する資料も生活者インサイトのデータを用いて作成し、ラウンダーへトレーニングを行ったうえで活動することで売場獲得の成功率の向上を図りました。その結果として、ほぼ全店でメーカー営業と小売本部が合意していた売場規模よりも大きな展開を獲得することができました。また、この施策を実施した店舗と実施していない店舗で売上の伸び率を比較したのですが、10%以上のプラスを生み出しました。これは博報堂グループのデータを活用し、現場に落とし込んでいくことがシームレスに行えた事例だと思います。
──先程挙がったラウンダーのリソース配分はどのようにして決めているのですか?
岸部
ラウンダーの取り組みにおいて、いつ、どの店舗で営業活動を行うのが適切なのか、リソース配分は営業成果を大きく左右する要素です。私たちはそれを戦略的に設計するために、AI/アルゴリズムやビッグデータを活用し、最適化を図ることができるソリューションを独自に開発しました。
西村
メーカー時代、ラウンダーの方と一緒に仕事をする場面が多かったですが、当然のことながら人によって業務パフォーマンスに大きく差が生じたり、属人化しやすい傾向にあると思います。その為、過去からのデータや傾向値に基づいてラウンダーの業務配分や作業最適化ができることは依頼主であるメーカーから見ても魅力的に映るはずです。
岸部
今後もさらに対応領域を拡大し、ご提供できるソリューションを増やしていくことで、「博報堂グループと組むと店頭売上が上がる」というところまで持っていきたいと考えています。
西村
先に挙げた、メーカー営業担当者の提案精緻高度化に備えて、弊社の「配荷方程式TM」を始めとするソリューションを提案に活用して頂きつつ、最終の店頭実現はラウンダーが担うといった全方位的にトレードマーケティング領域を支援できることが、博報堂グループとしてのオリジナリティであり強みだと思います。
■プロフィール
岸部 純也
株式会社博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部
リテールプロデュース部 リテールプロデューサー
SIer、ラウンダー事業会社を経て、2015年に株式会社博報堂プロダクツ中途入社。日用雑貨、食品メーカーなどのラウンダー・店頭プロモーション領域を担当し、データドリブンな案件設計を推進。グループ会社であるセレブリックスへの出向を経て、現在はリテールプロモーション事業本部にてラウンダー領域の担当チームリーダーとして従事。
西村 庸平
株式会社博報堂 ショッパーマーケティング事業局
リテールDX推進グループ ビジネスプロデューサー
食品メーカーにおいて広域リテール企業への営業担当を経て、外資系トイレタリーメーカー入社。カスタマー共同での製品開発や販促企画のローンチ、チームマネージャーとしてJBPの新規締結等、多岐にわたる業務を経験。数多くの購買データやショッパーデータに触れトレードマーケティングの川上から川下までを会得。2022年6月博報堂入社。現在はリテールメディアや新規ソリューションの開発、メディアコンサルティング業務に従事。