2021年、創業16年目を迎えた博報堂プロダクツ。
その先、創業20周年を迎える2025年にはどのような社会が待ち受けていて、
プロモーションはいかなる変貌を遂げているのか。
そんな未来を担う20代、30代を中心とした中堅社員が部門を跨いで、
5年後のプロダクツとプロモーションを語り合うセッションです。
クロスセッションVol.1
~OMOの未来~
第一回目のテーマは「OMOの未来」です。コロナ禍によってオンラインへのシフト、またはハイブリッド化が一気に進み、概念的に解釈されていた「OMO」というキーワードが、一気にビジネスの表舞台に実態を伴って躍り出てきました。2025年には、また違ったコンセプト、または言い方に変わっていると思いますが、オンラインとオフラインを跨ぐプロモーションの在り方がどうなっているのか、という課題は振り幅の違いはあれど、大きくは変わっていないでしょう。
今回はこのテーマについて、コピーライターとして社会人人生をスタートし、いまは広くコミュニケーションの全体設計を担当するプランナーの役割も担う、動画ビジネスデザイン室の高市拓明(写真中央)。そして「売ってなんぼ」のダイレクトマーケティングの世界で、メディアプランニングから分析、ECの設計、コールセンターによるクロージングまでを担ってきたカスタマーリレーション事業本部の千田寿朗(写真右)。小売店の喫緊の課題にある、リテールDXの最前線で日夜、獅子奮迅の日々を送るリテールプロモーション事業本部の久保龍太郎(写真左)から話を聞きました。
(聞き手:広報部 内田)
内田 まずは皆さんの入社年次、仕事の内容、強みや誰にも負けない得意技などを教えてください。
高市 2011年入社で今年10年目。32歳です。入社以来、コピーライターでやってきましたが、直近4年前からプランナーの肩書をもらっています。今年度からは動画ビジネスデザイン室という新しい部門で"デジタルコミュニケーションプランナー"という肩書きになりました。
コピーライターとしての言葉の力というところから、ムービーだけでなく、キャンペーン全体の設計、企画をトータルで作っています。仕事をする上での信条は…「それは、笑えるか」です。
千田 2015年入社で今年6年目。28歳です。入社当時は什器や印刷物の制作に携わっていて、店頭プロモーションなども手掛けてきました。
その後、デジタル制作にも携わるようになり、今はDMを送ってアウトバウンドでクロージングするなどコールセンターの仕事も増えてきました。テレビ通販、メディアプランニングにも対応しています。
オンラインとオフライン両方をやってきて、分析なども対応しているので、課題を与えられれば何かしらの提案をすることができると思います。
久保 2018年入社で今年3年目。25歳です。入社時は印刷事業本部(現:リテールプロモーション事業本部)で、2年ほどそちらに在籍していました。
その後、デジタル系に強い人材を育成するという話があり、リテールプロモーション事業本部の中のデジタルテクノロジー部という部署に異動となり、現在に至ります。
印刷ではチラシやポスターなどの印刷業務を回しつつ、テクノロジーのほうではリアル店舗を360度撮影してオンラインストアを構築するソリューション「バーチャルショップ360」などを担当しています。
5年後の2025年には企画書は無くなっている??
内田 皆さんには事前にアンケートに答えていただいているので、そちらを元にインタビューを進めていきたいと思います。まずは「5年後の2025年にはどのような変革が起きるのか?」という質問です。
高市さんは「企画書という概念がなくなるかも」と回答されていますね。その背景について現時点でどのような兆しがあるのか、実際に無くなった時にどのような状況になると予測されているのでしょう。
高市 5年前を思い出すとPCはデスクトップでしたし、新入社員は固定電話の取り方から教わっていました。携帯はガラケーでしたが、今は入社してすぐにiPhoneが配布される時代。打ち合わせもzoomなどのリモート形式に変わってきています。そう考えると5年後というのは未知だと思うんですが、身近なところで言うと、「企画書」という言い方が無くなったりするのかなと。
今は紙が主体ですが、5年後には「企画データ」という名前に変わっていたりとか。わざわざ企画書とか企画データにまとめるのではなく、チャットベースで提案する、みたいなこともあるかもしれないですね。昔からデジタル領域の革新は、こういったビジネス領域のソリューションから生まれていくイメージがあって、ビジネスの中でアップデートされたものが、一般に展開されていくことがよくあると思うんですが、最近で言うとやはりzoom。これはビジネスシーンで拡がって、それが一般に浸透していった代表的なものだと思います。ビジネスシーンで紙や書類が無くなっていくと、世の中がどう変わっていくのかが楽しみですね。
ロボットタクシーの車内は究極のOne to One広告を可能にする。
内田 続いて千田さんの「トラフィックモービルトランスフォーメーション」についてお聞きします。
千田 最近、よく自動運転のCMを見かけるようになりましたし、燃料もガソリンから電気に移行しています。
色々なところで議論を呼んでいますが、自動運転ができるようになると、タクシーが無人化され、新たに人々の交通を支えることになると思われます。タクシーが電気自動車になり無人になれば、メンテナンスを考慮したとしても今より運賃が随分と安くなるのではないかと思いました。もし電車や新幹線より安く移動できたりすると、駅のプライオリティが下がり、住む場所も以前より自由に選べるようになるのではないでしょうか。さらに打ち合わせもオンラインでできるとなれば、なおさらどこにでも住めますよね。
そしてプロモーションの観点から見ると、タクシーは相当にパーソナルな空間だと言えます。公共交通のような一括広告ではなく、パーソナルな空間に広告のスクリーン、音声や映像などを用意することで1対1になれるんです。ですから、事前に登録し、年代と性別、好みなどがわかった状態で、流行っているものや好みそうなものを広告にすれば、絶大な効果が得られるでしょう。そうなると「個人が自分のデータを渡すことを引き換えに自らに有益なサービスを受ける」ということが増えるのではないかということです。
今回のタクシーに関わらず、サービス元がユーザーのデータを得て、データを元に広告を打ち、広告収益を収益として、運用していく形です。こうして、安く、もしくは無料でサービスを提供することでユーザーはどんどん増えていき、広告もたくさん入るという仕組みです。
大きくて体力のある会社はこういう仕組みをやりやすく、成功すれば簡単に競合が入れなくなるので、今後、こういった形でさらに覇権を持つのではないかと思います。すでにそういう動きは随所で見られていますね。
(ロボットタクシー:イメージ)
内田 オンライン化が進めば、時間的、距離的な制約がなくなり、会社に来なくても打ち合わせができるから地方に移り住む人も今以上に増えていくでしょう。
新型コロナが終息した先には、またリアルが少し戻るとは思いますが、リアルな世界をよりバーチャルで体験することの精度は増すはずです。
さらに今のプロモーションはどうしてもターゲティング精度の問題で当たり外れがありますが、それがピンポイントでジャストフィットすれば、広告は一人ひとりにとってもありがたい存在になると思います。
必要な人に必要なタイミングで、必要な情報がピタッと提供できる。究極の1対1とはそういうことですよね。
久保 オフライン、オンラインのマーケティングを考えた時に、いずれはリアル店舗を訪れているお客さんのデータが全部とれるようになると思っています。
そうなれば、今手掛けているようなバーチャルショップのデータと、実際にお店を訪れているお客さんのデータが合致して、一人ひとりが本当に必要とする広告を提供することができると思います。
内田 この先、DXのさらなる推進、デジタルツール・デバイスの進化、5Gも含めて通信環境が整っていくことによって、5年後には仰るような理想とする形が実現できているかもしれません。
久保 DXで考えると象徴的なのが勤務地です。私自身、デジタルに異動になってから打ち合わせがほぼオンラインになったので、最近湘南に引っ越しました。
印刷にいたオフラインから今のオンラインに変わり、生活スタイルの激変を実感しています。
データから予測し、ピンポイントでサジェスチョンする時代へ。
内田 では次に今後デジタル化がさらに加速する中、5年後のプロダクツでは実際にどのような「新しい前例」が作られていると思われますか?
高市 以前はメールベースの仕事の進め方でしたし、同時に抱える案件もそれほど多くありませんでした。
でも今は、企業から受注する価格も安くなっていると同時に、案件自体も増えています。
それは、社内のコミュニケーションや資料のやりとりがスムーズになったから対応できていると実感しています。連絡もチャットだったり、ストレージだったりします。
5年後には打ち合わせのやりとりが非効率的と考えられ、打ち合わせ無しでどんどん提案物が出来上がっていくようになるかもしれません。
今のようにスケジュールを細かく決めて、というスタイルではなく、ある意味すごくリアルタイムな仕事の進め方とも言えます。
久保 ただ、移動がなくなった分、チャットベースで常に打ち合わせしているので、打ち合わせの件数自体は増えているような気がしますね。
千田 私の場合は、要所々々の打ち合わせをストレージに上げて、それぞれの担当が更新しながら進んでいき、直前に全体で1回打ち合わせをするという感じです。ストレージで更新を含めて皆で共有できるので、すごく楽ですね。
内田 そのスタイルに慣れていけば、無駄な会議が無くなりそうです。
高市 無駄な議論が無くなって、昔は3時間かかっていたものが今は30分、1時間でできますから、いずれは5分で終わる時代になったりするかもしれないですね。
内田 打ち合わせの仕方やプレゼンの方法は大きく変わりそうですね。続いて、千田さんのOne to Oneプロモーションのお考え方についてうかがいます。
千田 脱プロモーション、つまり押し付けからサジェスチョン(提案)へ。
モバイルの通信体系も5Gになり、今後さらにデータはどんどん大きくなっていく一方です。
ですから、企業はより多くのデータを収集できるようになり、個人のデータが溜まっていくでしょう。
今も実際に店頭サイネージと連動し、通る人の属性データに合わせて画面の広告が変わるというものがありますが、これはデータに紐づいているというより、顔認証で年齢や性別に合わせています。
これがもっと多くの個人データを持ち、連動することで、その人が近くに来た時にピンポイントの広告が打てるようになるわけです。そうなれば、先ほどのロボットタクシーも100%その人に適した広告を提供できますから、今のような押しつけのプロモーションではなくなっていくと思っています。
今も一部実用されていますが、たぶんこれを検索するだろう、そろそろこれを注文するだろうとデータから予測できるのです。そして、これがサジェスチョンであり、100%の完全なOne to Oneマーケティング、ダイレクトマーケティングの最終形だろうと思っています。
内田 そうなると久保さんの考えともリンクしているわけですね。もっとテクノロジーが整えば、5年後には一人一人へのマイクロマーケティングが可能になるでしょうね。
千田 ただ、今のところ、個人情報の取り扱い含めた法的なハードルはありますね。個人情報を知られるのは嫌だと思われると、難しくなります。
追いかけるマーケティングではなく、合意を得た上で、必要な情報が入ってくるならデータを提供してもかまわないという関係性ができれば、よりよきマーケティングとして成立するでしょう。
高市 一方でターゲットが細分化されればされるほど、マス的なブランディングが大事になると思います。
例えば人間の趣味嗜好など、感性の部分はデータ化できないと仮定したとき、「ビールどうですか?」と聞かれて「これがいい」とサジェストされたとしても、実際には友人から薦められて最近違うビールを飲んでいたとしたら…。そういうブランディングも必要になってくると思いますから、これからは細分化とブランディングを両立していく必要があるのではないでしょうか。
千田 しっかりとデータが取れていれば、いわゆるターゲット「層」という考え方も、今よりさらに精度が高くなり、新しい客層を広げやすくなるかもしれません。
2025年に必要となる組織とは? ―資産である人材の多様性を「見える化」することが重要に―
内田 プロダクツには現在12の事業本部があるのですが、2025年を見据えた時に存在するであろう、新しい事業本部として高市さんが考えた「スタッフィングディレクション事業本部」について詳しく教えてください。
高市 今はターゲットも得意先の商品も戦略も、以前よりかなり細分化しています。そのため、自分がやってきた領域に関わらず、その商品やターゲットをどれだけ深く知っているかという、我々提案する側の個性がより重要になっていきます。
声優に強い、ゲーム好き、映画好き、ギャンブル好きなど、自分が知っていることと対応する業務をリンクすることができれば、大きな強みになると考えます。そういうところも含めて、社員個々の特徴をよく知っている部門があれば、最初のスタッフィングでその分野に詳しい人やプロフェッショナルを配置できるかなと。
そうすれば、「個」に向けたサジェスションがより大きな共感を伴って強くなるはずです。
内田 プロダクツグループ社員も、それぞれ自分が好きな領域のプランニングだったら、本音でプレゼンできるかもしれませんね。
まずはその企業や商品が好きであること。これからはファン以上の信者じゃないとダメなのかもしれません。
そういう個人の属性について、社内で把握できるしくみがあればいいですよね。
プロダクツは人が資産ですから。その資産を見える化することが重要だと思います。千田さんのビジネスインフォメーション事業本部も目指す方向は一緒なのでしょうか?
千田 これからは個々の案件に対応することはもちろん、もう一つ上のレイヤー(戦略面)で戦うことで、会社としてさらに強くならなければいけないと考えます。広告会社や制作会社において、今後はさまざまな自動化が進み、今は手作業の部分も自分たちが手を動かさなくてもいいことが増えたり、今やっているような仕事で、自動化できるようなことはどんどんなくなっていくと思われます。そうなった時、新たな活路を探さなければいけません。例えば、私たちは広告制作会社として、これまで様々な会社と取引をさせていただいていることが、大きな強みになるのではないでしょうか。我々は、会社として見れば、実に色々な業種の方々と取引をさせていただいており、さらに、彼らの戦略にも関わらせていただいているようなケースも多くあります。
そんな中で、ナレッジをしっかり整理すれば、業種ごとの提案はもちろん、異業種への横展開もできると思いますし、どのような業種の仕事をしていたのかがわかる担当者バンクのようなものもあれば、より役立てやすいと思います。
また、様々な業種を知っているという面で、ビジネスマッチングのようなサービスも可能だと思われます。
ビジネススケールの大きい会社はユーザーのデータを吸い上げながらさらに大きくなっていきますが、時代に乗り遅れそうになっている会社や、付いていけない会社には、非常に厳しい時代となっていくと思いますので、これらの会社を助けるために、また、自分たちの活路を見出すためにも、こういった事業本部があると、可能性が広がると思います。
ナレッジをしっかり活用できる形でデータバンク的に残しつつ、「事業」にも、One to Oneで提案ができるといいですね。
内田 それについてはデータに加えて、やはりクリエイティブの力が欠かせないと思うのですが、クリエイティブを中心に担っている高市さんはいかがでしょうか?
高市 私自身が心掛けているのは、商品やブランドに接触することで得られる体験を拡張することです。
同じような機能を持つ競合商品に対して新しい価値を加えていく。例えばエンタメ性などです。同じ買うなら、もっと気分が高まる商品の方がいいよね、と思わせるようなクリエイティブを心掛けています。
そういう心が動くクリエイティブをオフライン、オンライン限らず提供し続けていくことがOMOには欠かせないと考えています。
サジェストのその先の「本人も気づかないようなニーズ」を掘り当てることを狙いたいですね。
それと先ほど来から話が出ている、細分化していくからこそ、新しい需要を掘り起こすマス的なブランディングやプロモーション施策は重要性を増すかもしれません。
サジェストだけだと「すでに知っていて必要なモノしか買わない」という状態になり、需要創造は停滞しますから、そのためにもこれらブランディング施策は欠かせないモノになってくるのかなと。ただしありがちなイメージ表現はより一層通用しなくなるはずなので、表現やターゲティングの精度はさらに高いものが求められてくると思います。
ー最後に
5年後にはデータがつなぐOMOを通じて、究極のOne to Oneマーケティングが実現しているであろう、と言うことがメンバー全員の合意点でした。
「これからのデジタル」について話をする時に、サザエさんに出てくる三河屋のサブちゃんをよく例に挙げているのですが、彼はサザエさん一家のことを隅々まで知り尽くしている究極の御用聞きです。サブちゃんが磯野家の家族構成・近況を熟知していて、一人ひとりの趣向を踏まえてお酒とか調味料が無くなる前にお伺いして、おススメ(サジェスト)しているような、そんな世界の再現です。
そしてそれが実現した世界は、デジタルとデータ一辺倒の見たことも無いような近未来ではなく、実は戦後間もないころのまさに「サザエさん」の時代にようになるのではと思います。
まさに商売の原点に回帰する、そんな世界が5年後に実現しているかもしれません。
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千田寿朗『残業がない/それぞれが副業を持っている/有給取得率100%/長所・短所を分析によって自分と上長が把握している/それぞれが新しいビジネス、稼ぎ方を模索している』
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