レクサス@東京モーターショー
トヨタ自動車株式会社
「五感の刺激」でレクサスを体感できる空間“Lexus Senses Theater”
2019年10月に東京ビッグサイトで開催された「第46回東京モーターショー2019」。世界各国の自動車メーカーが参加する2年に一回のイベントで、2019年も来場数が130万人を超え大盛況。会場の中でひと際賑わいを見せていた「レクサス」のブース。先端テクノロジーを効果的に使った演出を博報堂プロダクツが担当しました。
INTERVIEW
練りに練ってクライアントと作り上げた「秘伝のたれ」の体験価値
博報堂プロダクツは、2015年から2017年そして2019年と東京モーターショーで「レクサス」ブースの制作を手掛けました。いうまでもなく東京モーターショーは日本の自動車市場で最も長い歴史があり最も注目を集める重要なイベントです。クライアントにも生活者にも半端なレベルでは決して満足してもらえない「レクサス」ブース制作は、毎回我々にとって最高の緊張感と最高のやりがいを同時に感じる貴重な業務となっています。思わず熱が入るお仕事です。
2015年から東京モーターショーでレクサスのブースを担当してきましたが、今回(2019年)は、クルマの展示という枠を超えた「体験型コンテンツ」が主軸となりました。最初はイベント・スペースプロモーション事業本部が主導して、過去と全く違ったブースの在り方から考えました。ブランド体験を中心に据えたブースとはどんな形かをディスカッションし、クライアントと意見交換しながら煮詰めていきました。
私たち企画制作事業本部がジョインしてからも、コンテンツを煮詰める作業は続き、ミーティングの中で出てきたアイデアの種を膨らませてクライアントに提案し、そのフィードバックを元にさらに進化させたアイデアを形作り、またクライアントに提案する。それを繰り返すことで、レクサスのクルマづくりに込められた「秘伝のたれ」を来場者体験に昇華させるアイデアがどんどん湧き出してきました。
妥協せずに自分たちのベストを追求したこともあり、アイデアを煮詰める作業に時間をかけました。10月末の本番に間に合わせるためには、大掛かりなコンテンツですので、通常春すぎには制作がはじまっていなければならなかったのですが、夏ごろになってようやくプロジェクトが具体的に走り出しました。
イベント・スペースプロモーション事業本部が主導してプロジェクトは進行し、テクニカルな部分や演出は主に企画制作事業本部が担当。2017年の時も一緒に仕事をしたことも幸いし、コミュニケーションがとてもスムーズでした。クリエイティブは全面的にお任せして、全体造作やそれ以外の安全性やユーザーにしっかり意図が伝わるかなどの運営面で気を配りました。役割分担がしっかりできたのも、プロダクツの強みですし、プロジェクト成功の要因だと思います。
企画制作事業本部からは、プランナー・エンジニア・モーション・3DCGなどいろんなチームの人間が参加しました。ウチだけでもかなりの人数がこのプロジェクトに関わっています。私も2017年から携わっており、今回は主にプロジェクションマッピングを担当しました。
正直レクサスは決して単純化できず深淵なところに魅力が潜むブランドだと思います。博報堂グループでレクサスを深く理解した上で、博報堂プロダクツも回を重ねることにあぐらをかかず毎回新しいチャレンジを繰り返してきました。クライアントのみなさんも大変協力的で、長年の関係性が生み出す「信頼」によって、そのチャレンジに対してもいろいろ円滑に進めることができたのかなと感じています。
レクサス自慢のエンジン音
「天使の咆哮」を立体音響で体感
――東京モーターショー2019のレクサスのブースにおいて、レクサスを「五感の刺激」で体感できる空間“Lexus Senses Theater”として展開。博報堂プロダクツはコンテンツの制作と運営を担当しました。Theater1では、レクサスのフラッグシップモデルである「LFA」のエンジンサウンドを、プロジェクションマッピングを駆使した演出で、来場者に聴覚と視覚で楽しんでもらいました。
LFAは、全世界で500台しか発売されていない、レクサスが誇るスーパースポーツカー。ヤマハと共同開発した4.8ℓV型10気筒エンジン、その甲高いエンジンサウンドは「天使の咆哮」と呼ばれ、美しいエンジン音が魅力のクルマです。
「クルマ作りにおいてレクサスが大切にしていること」をユーザーにメッセージとして届けるため、自慢の「天使の咆哮」を聴覚体験として聞いてもらうためのコンテンツを作ることになりました。
希少なクルマだけに実際のエンジン音は収録時まで聞くことができなかったので、どの音が一番「五感を刺激」するか想像しながら演出プランを練り上げました。トヨタのテストコースで行われた収録の時も、ドライバーの方に細かい指示をさせていただき、狙っている音が収録できるようにドライバーからのフィードバックも踏まえて進めました。
リハーサルもなく、ぶっつけ本番の収録。トヨタのエンジン開発に関わった方にアドバイスをもらうなどしました。エンジン音の収録だけに6日間かけましたが、トヨタの方々は私たち制作陣のこだわりにとことん付き合ってくれました。
エンジニアをはじめトヨタの方はみんな協力的でした。彼らが目指した理想のエンジン音を聞いてほしいという熱い思い。トヨタさんはやはりモノづくりの会社だなと感じました。
企画制作事業本部のデザインチームが起こしてくれたデザインを元に、映像制作を担当するREDHILL事業本部でプロジェクションマッピング用のモーションを制作しました。私たちのチームはクルマに関連した案件が多いのですが、エンジンサウンドを可視化するような表現は初めての試み。CGチームがコンピュータでシミュレーションしたものを、現場で尹さんがプロジェクションマッピングに仕上げてくれました。
一つの面に見えるかもしれませんが、複数の面を張り合わせて作り上げています。プロジェクションマッピングは細かい調整が必要で、細心な作業の連続でした。「LFA」のエンジンサウンドを録音したのは、トヨタの社内の人も喜んでくれたようです。それだけ、レクサスが「天使の咆哮」に自信を持っており、私たちがそれをクライアントが納得のいく形でユーザーに伝えるお手伝いができたと感じています。
360度の立体音響空間を生かすために、スピーカーの配置を工夫して、エンジン音が走り去るような演出も入れていたのですが、スタジオのステレオ環境と実際の360度環境では音の聞こえ方が全く違うというような事態もありました。そのため、実際のスピーカー環境に合わせて映像を微妙に修正して仕上げています。
期日と睨めっこの状況下で作り上げた
プロジェクションマッピング
――Theater2では、ソニックチタニウム色のクルマ「LC」にプロジェクションマッピングを投影。時間や見る角度によって変わりゆくレクサスの表情を体感してもらえる仕掛けを作りました。朝焼けの光景や満天の星空が写り込む映像を通して、レクサスが持つ機能美を視覚的に見せる試みは、多くの来場者の心を捉えました。
レクサスブランドのこだわりである「Time in Design」を体感してもらうため、レクサスが走っているいろんなシーンをプロジェクションマッピングで表現。車体の曲面を撫でるように敢えて直線的なレーザー光線を投射し屈折する様子を見せることで、車体の曲線の複雑さを伝える工夫を施しました。
また、プロジェクションマッピングの素材は、実際に360度撮影した映像素材を使用しています。風景の撮影が大変でした。朝日を撮影できるチャンスは一日のうちでもごく限られた時間。納得のいく映像が取れるまで何度もチャレンジしました。
プロジェクションマッピングは、手をかけるほどよくなります。ゴールがないような物ですから、モーターショーが開幕する直前まで手を加えていました。
会場のレギュレーションで制約を受ける部分もあり、ベストな位置に機材を置けないなど、現場で調整を強いられるケースもありました。スペックダウンしてでも、軽量のプロジェクターを使うなどギリギリまであれこれと試行錯誤をしました。
ギリギリまで調整すればクオリティは上がます。でも、期日までに間に合わせなければならないし、作り始めると後戻りはできない。そんな状況の中で、担当部署の方と話し合いながら進めました。
時間がない中、これまでにない表現にチャレンジしたことを、クライアントには高く評価していただけたと思っています。成功の秘訣は時間をかけてクルマづくりの「秘伝のたれ」の要素を、来場者に体験を通じて感じていただけたこと。レクサスのブランドサイトでプロジェクションマッピングの動画が追体験できるようになっているのですが、再生回数を伸ばしていると伺っています。
シアターの外でもさまざまな工夫をしました。シアター内にあるクルマが走ってきたかのようにタイヤ痕をブースの床に描いたり、天使の咆哮のエンジン音を流したりと、ユーザー目線で体験が最大化するような取り組みをしました。
コンテンツが好評で、シアター内に人が入りすぎて後ろの人から見えなくなったときも、前方の人に座ってもらうようベンチを用意するなど、現場の対応も素晴らしかったです。
振り返るとこの仕事は各領域で大舞台の経験が豊富な博報堂プロダクツのプロ達が集結。こだわりや情熱を各々がたっぷり注ぎながらそれをやってのける「共創」力の有効性をあらためて実感した仕事でした。そして最後になりますが、関係者全員がワクワクするこのような機会をいただいたレクサスの皆様にも深く感謝し御礼を申し上げます。
プロジェクトメンバー
イベント・スペースプロモーション事業本部
イベントプロデューサー 川崎 年登
イベント・スペースプロモーション事業本部
イベントプロデューサー 北島 正太郎
イベント・スペースプロモーション事業本部
イベントプロデューサー 磯村 紀久子
企画制作事業本部
クリエイティブディレクター 伊藤 俊輔
企画制作事業本部
テクニカルディレクター 尹 俊釋
REDHILL事業本部
CG/VFXプロデューサー 佐藤 保寛